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東京高等裁判所 昭和52年(ラ)610号 決定 1977年11月29日

抗告人

岡田卓

右代理人

松永繁雄

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

抗告代理人は、原決定を取り消し、さらに相当の裁判を求める旨申し立て、その理由として、別紙抗告理由書記載のとおり主張した。

抗告理由第一点について。<省略>

抗告理由第二点について。<省略>

抗告理由第三点について。

抵当権の実行として数個の不動産に対し競売の申立てがなされた場合においては、任意競売手続にも準用されるものと解すべき民訴法六七五条の法意によれば、裁判所が競売に付せられた数個の不動産のうちある不動産のみの競落を許可するにあたりそのある不動産の売得金が債権及び競売費用を償うに足る以上競落を許すべき不動産の選択は専ら裁判所の自由な意見により定めるべきものであると解するのが相当であり(大審院大正三年九月一〇日判決民録二〇輯六六七頁)、また、裁判所が競売の申し立てられた数個の不動産のうちある不動産のみを競売に付しその不動産の売得金が債権及び競売費用を弁済するに足るときは、その不動産のみの競落を許可すべきであり、右不動産の選択は裁判所の自由な意見により定めるのが相当であると解すべきである。もつとも民訴法六七五条二項により債務者が特定の不動産を指定したときはこれに従うのを妥当としようが、本件においては債務者においてかかる指定をする機会は十分存したと認められるのにこれをなしたことは認められない。従つて裁判所が競売を申し立てられた数個の不動産のうち本件建物のみを競売に付したことのみをもつて競売手続に違法があるものとすることはできない。

本件記録によれば、債権者は、抵当権の実行として本件建物及び土地一筆、土地持分二筆に対し競売の申し立てをし、抵当債権は貸付元金五〇〇万円及びこれに対する昭和五〇年四月一日から完済に至るまで一〇〇円につき日歩八銭二厘の割合による損害金であり、原執行裁判所は本件建物のみを競売に付し、競売申立印紙代は五〇〇円、鑑定費用四万一、八〇〇円公告料一万六、〇〇〇円、執行官手数料一万六、六八四円であり、また、本件競落を許可された競買申出人の申し出た最高価は前叙のとおり九〇〇万円であることが認められ、これらの事実関係のもとにおいて本件建物のみの売得金は債権及び競売費用を弁済するに足りることが窺われるから、原裁判所が本件建物のみの競落を許したことをもって裁量権の行使を誤つたものとすることはできず、抗告人の所論は採用することができない。

なお、記録を精査しても、原決定に取り消すべき違法は見当らない。

よつて、原決定は相当であつて、本件抗告は理由がないから、これを棄却すべく、抗告費用は抗告人に負担させることとして、主文のとおり決定する。

(吉岡進 園部秀信 太田豊)

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